MEDIA · Article 03

あなたの会社は、Webサイトを閉じた15秒後に忘れられている。
B2Bブランドの「記憶されない問題」について

商品が悪いわけではない。説明がわかりにくいわけでもない。Webサイトだって、それなりに整っている。それでも「なぜ問い合わせが増えないのか」という感覚がある方は、少なくないはずです。

答えは、こうかもしれません。

読まれた、わかった、でも、忘れた。

B2Bの購買は、Webサイトを見た日には始まりません。検討が始まった日には、すでにショートリストができています。そのリストに、あなたの会社は入っていますか。

B2B購買の「Day-1ショートリスト」という事実

Wynterが300社以上のB2BマーケターにB2B購買行動を調査した結果、次の事実が浮かびました(※3)。

「B2Bのバイヤーの92%は、Day-1ショートリスト、つまり検討を始めた日にはもう候補に入っていた会社からしか買わない」(※3 要約)
92%
Day-1ショートリストから
購買する割合
52%
バイヤーに記憶されているか
計測していない企業の割合
86%
「ある程度差別化されている」
と思っている企業の割合
17%
バイヤーの頭の中に自社が
存在するか定期確認している割合

図1. B2Bブランドのメンタルアベイラビリティに関する4つのデータ(出典:Wynter調査, n=300社以上のB2Bマーケター, 2025年)

デモを依頼する段階で、選択はほぼ終わっています。比較検討は「すでに頭の中にある候補を確認するプロセス」であって、新しい会社を発見するプロセスではないのです。

これを心理学では「現状維持バイアス」の視点で説明できます。人は、知らないものを選ぶことに強い抵抗を感じます。知っている会社の中から選ぶ方が、失敗のリスクを低く感じられる。だから、検討の初日にすでに知っている会社が優位に立ちます。

「Webを頑張っているのに、なぜ成約につながらないのか」という感覚がある方は、ここに理由があるかもしれません。問題はWebの出来ではなく、「検討が始まる前の段階で、候補に入っているかどうか」です。

記憶されない3つのパターン

この調査では、記憶されない理由が3つに整理されています(※3)。

  • 1. 横並びのメッセージ(37%の企業に該当) Wynterの調査で、B2Bブランドが同質化する最大の理由として挙げられたのが「リスクへの恐怖と横並び意識」でした(※3)。差別化のためにリブランドを行った結果、同じ時期に同じデザインの同じメッセージに変えた会社が3社並ぶ。リスクを取りたくないから、みんなと同じ方向へ動く。その結果、全員が似てくる。
  • 2. 計測していないから動けない(52%の企業に該当) 半数以上の企業が、バイヤーに自社が記憶されているかを計測していませんでした(※3)。計測していないから改善できない。改善できないから変わらない。
  • 3. 注意力の限界(80%の企業に影響) 購買担当者は、同時に6社以上を比較しながら他の業務もこなしています(※3)。「まあまあ印象的」な会社は、あっという間に記憶の外に出ていきます。
Jag Yamamoto の視点より

Wynterの調査は「B2Bブランドの記憶の問題」として語られています。しかし私には、これは「意味へのハンドル付け」がされていない状態の話として読めます。

記憶されるためには、名前が必要です。名前があっても、「何の会社か」というラベルが付いていなければ、記憶の棚に収まりません。棚に収まらないものは、必要なときに取り出せません。

「セキュリティが心配なときに思い出す会社」「コスト管理で困ったら連絡する会社」「B2Bの事業定義から一緒に考えてくれる会社」——こういう形で記憶されているとき、初めて「Day-1ショートリスト」に入ります。

あなたの会社は、今、何と呼ばれていますか。社内・顧客・Web・営業・AI。これらで同じ言葉が使われていますか。揺れているとしたら、記憶の設計から見直す必要があります。

記憶される会社の3つの共通点

Wynterの調査では、20%ほどの企業が記憶を勝ち取っていることも示されています(※3)。

記憶されない会社 記憶される会社
メッセージの一貫性 キャッチコピーを頻繁に変え、毎回記憶をリセットしている 一つのテーマを持ち続け、同じ価値を出し続けている
計測の習慣 Webアクセスは見るが、「記憶されているか」を確認していない バイヤーの頭の中の状況を定期的に確認している
記憶の機会 オンラインコンテンツのみに依存している イベントや体験から記憶を作り、18カ月の商談サイクルに耐える
問題との紐づけ 会社名だけが独立して存在する 特定の課題・場面と会社名がセットで記憶されている

図2. 記憶されない会社 vs 記憶される会社の特徴比較(出典:Wynter調査をもとにJag Project編集)

  • 一つのことを持ち続けていること。次々と新しいキャッチコピーに変えている会社は、毎回記憶をリセットしています。同じテーマで、同じ場所に、同じ価値を出し続けることが、記憶の蓄積になります。
  • 身体的な記憶の機会を持っていること。Wynterの調査では、イベントへの投資から大きなROIを得ている企業が14%存在しました(※3)。18カ月の商談サイクルを乗り越えられる記憶は、オンラインコンテンツよりも体験から来ます。
  • 「問題と会社名」がセットになっていること。特定の課題・場面と会社名がセットで記憶されているとき、問題が発生した瞬間に名指しで思い出されます。

最初に確認すること

「当社のことをどこで知りましたか?」という問いを、過去の成約顧客に聞いたことがありますか。「どのWebページを読みましたか?」ではなく、「どこで知りましたか?」です。

この一問の答えが、記憶設計の出発点になります。

記憶の設計から、事業定義まで。
「何の会社として覚えられるか」を一緒にほどきます。

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参考文献

(※3)Wynter. "The mental availability crisis in B2B". Wynter Blog. https://wynter.com/post/b2b-mental-availability-crisis, (参照 2026-05-12).