あなたの会社は、Webサイトを閉じた15秒後に忘れられている。
B2Bブランドの「記憶されない問題」について
商品が悪いわけではない。説明がわかりにくいわけでもない。Webサイトだって、それなりに整っている。それでも「なぜ問い合わせが増えないのか」という感覚がある方は、少なくないはずです。
答えは、こうかもしれません。
読まれた、わかった、でも、忘れた。
B2Bの購買は、Webサイトを見た日には始まりません。検討が始まった日には、すでにショートリストができています。そのリストに、あなたの会社は入っていますか。
B2B購買の「Day-1ショートリスト」という事実
Wynterが300社以上のB2BマーケターにB2B購買行動を調査した結果、次の事実が浮かびました(※3)。
購買する割合
計測していない企業の割合
と思っている企業の割合
存在するか定期確認している割合
図1. B2Bブランドのメンタルアベイラビリティに関する4つのデータ(出典:Wynter調査, n=300社以上のB2Bマーケター, 2025年)
デモを依頼する段階で、選択はほぼ終わっています。比較検討は「すでに頭の中にある候補を確認するプロセス」であって、新しい会社を発見するプロセスではないのです。
これを心理学では「現状維持バイアス」の視点で説明できます。人は、知らないものを選ぶことに強い抵抗を感じます。知っている会社の中から選ぶ方が、失敗のリスクを低く感じられる。だから、検討の初日にすでに知っている会社が優位に立ちます。
「Webを頑張っているのに、なぜ成約につながらないのか」という感覚がある方は、ここに理由があるかもしれません。問題はWebの出来ではなく、「検討が始まる前の段階で、候補に入っているかどうか」です。
記憶されない3つのパターン
この調査では、記憶されない理由が3つに整理されています(※3)。
- 1. 横並びのメッセージ(37%の企業に該当) Wynterの調査で、B2Bブランドが同質化する最大の理由として挙げられたのが「リスクへの恐怖と横並び意識」でした(※3)。差別化のためにリブランドを行った結果、同じ時期に同じデザインの同じメッセージに変えた会社が3社並ぶ。リスクを取りたくないから、みんなと同じ方向へ動く。その結果、全員が似てくる。
- 2. 計測していないから動けない(52%の企業に該当) 半数以上の企業が、バイヤーに自社が記憶されているかを計測していませんでした(※3)。計測していないから改善できない。改善できないから変わらない。
- 3. 注意力の限界(80%の企業に影響) 購買担当者は、同時に6社以上を比較しながら他の業務もこなしています(※3)。「まあまあ印象的」な会社は、あっという間に記憶の外に出ていきます。
Wynterの調査は「B2Bブランドの記憶の問題」として語られています。しかし私には、これは「意味へのハンドル付け」がされていない状態の話として読めます。
記憶されるためには、名前が必要です。名前があっても、「何の会社か」というラベルが付いていなければ、記憶の棚に収まりません。棚に収まらないものは、必要なときに取り出せません。
「セキュリティが心配なときに思い出す会社」「コスト管理で困ったら連絡する会社」「B2Bの事業定義から一緒に考えてくれる会社」——こういう形で記憶されているとき、初めて「Day-1ショートリスト」に入ります。
あなたの会社は、今、何と呼ばれていますか。社内・顧客・Web・営業・AI。これらで同じ言葉が使われていますか。揺れているとしたら、記憶の設計から見直す必要があります。
記憶される会社の3つの共通点
Wynterの調査では、20%ほどの企業が記憶を勝ち取っていることも示されています(※3)。
| 記憶されない会社 | 記憶される会社 | |
|---|---|---|
| メッセージの一貫性 | キャッチコピーを頻繁に変え、毎回記憶をリセットしている | 一つのテーマを持ち続け、同じ価値を出し続けている |
| 計測の習慣 | Webアクセスは見るが、「記憶されているか」を確認していない | バイヤーの頭の中の状況を定期的に確認している |
| 記憶の機会 | オンラインコンテンツのみに依存している | イベントや体験から記憶を作り、18カ月の商談サイクルに耐える |
| 問題との紐づけ | 会社名だけが独立して存在する | 特定の課題・場面と会社名がセットで記憶されている |
図2. 記憶されない会社 vs 記憶される会社の特徴比較(出典:Wynter調査をもとにJag Project編集)
- 一つのことを持ち続けていること。次々と新しいキャッチコピーに変えている会社は、毎回記憶をリセットしています。同じテーマで、同じ場所に、同じ価値を出し続けることが、記憶の蓄積になります。
- 身体的な記憶の機会を持っていること。Wynterの調査では、イベントへの投資から大きなROIを得ている企業が14%存在しました(※3)。18カ月の商談サイクルを乗り越えられる記憶は、オンラインコンテンツよりも体験から来ます。
- 「問題と会社名」がセットになっていること。特定の課題・場面と会社名がセットで記憶されているとき、問題が発生した瞬間に名指しで思い出されます。
最初に確認すること
「当社のことをどこで知りましたか?」という問いを、過去の成約顧客に聞いたことがありますか。「どのWebページを読みましたか?」ではなく、「どこで知りましたか?」です。
この一問の答えが、記憶設計の出発点になります。
記憶の設計から、事業定義まで。
「何の会社として覚えられるか」を一緒にほどきます。
参考文献
(※3)Wynter. "The mental availability crisis in B2B". Wynter Blog. https://wynter.com/post/b2b-mental-availability-crisis, (参照 2026-05-12).