問い合わせの9割は、ツールで見えていない場所から来ている
Webの問い合わせフォームにデータが入ってくる。
Google Analytics を開くと「オーガニック検索」や「直接流入」が多い。
だから「SEOが効いている」「広告が効いている」と判断する。
その判断は、事実ではあります。
ただ、事実の一部しか見えていないとしたら、どうでしょうか。
ツールはウソをついていません。
ただ、ツールは「見える場所」しか見ていないのです。
導線の話をする前に、「気づき」の話をしなければならない
B2Bの購買プロセスを考えるとき、多くの企業は「Webサイトへのアクセス」から逆算します。
どのページが読まれたか。どのランディングページからフォームに進んだか。どのキーワードで流入したか。
その分析は間違っていません。
ただ、それは「接触した瞬間」の記録であって、「知った瞬間」の記録ではありません。
購買担当者がサービスや会社を知るきっかけは、こんな場面から始まっていることが多いはずです。
- 社内のチャットで、同僚が「この会社に相談したことある」と書いていた。
- 業界のコミュニティで、信頼できる人が紹介していた。
- お気に入りのポッドキャストで、ゲストが言及していた。
- ランチのとき、先輩が「あそこ、いいよ」と話してくれた。
こうした情報のやり取りは、ツールには記録されません。URLも、クリックも、トラッキングコードも、そこには存在しないからです。
心理学でいえば、これは「社会的証明」が機能している状態です。信頼できる人が選んでいる、信頼できる人が話しているという事実が、最も強い安心材料になります。そしてその力は、匿名の広告やオーガニック検索の比ではありません。
データが示した、衝撃的なズレ
アメリカのB2B専門会社Refine Labsは、620件の問い合わせデータを使って、ソフトウェアの計測結果と顧客の自己申告を照合しました(※1)。
結果は、想像以上のズレでした。
ツールは「問い合わせの78%がオーガニック検索や直接流入」と報告していました。しかし実際に問い合わせた人の自己申告では、「SNS・ポッドキャスト・口コミ・コミュニティ」で85%を占めていました。
さらに、成約(クローズド・ウォン)に至った案件に絞ると、ダークソーシャル起源のものが98%を占めていました。
ダークソーシャル起源
ダークソーシャル起源
これは「Webを頑張るな」という話ではありません。Webに流入してくる前に、別の場所で評判がすでに形成されているという話です。
「アトリビューションの幻想」とは何か
Refine Labsは、この現象を「アトリビューションの幻想(The Attribution Mirage)」と名づけています(※1)。
蜃気楼のように「そこにあるように見えているが、実際には別の場所にある」という意味です。
カーナビが「このルートを通りました」と記録するのは、そのルートを実際に追跡できたからであって、追跡できない山道の近道を通った事実はログに残りません。Webのアトリビューションツールも、同じ仕組みで動いています。
私がこのデータを読んで思ったのは、「見えているものだけを信じると、間違った方向に予算を増やし続ける」ということです。
「広告を増やしても問い合わせが増えない」
「SEOの順位は上がったのに、商談にならない」
そう感じているB2B企業の多くは、正しい施策を正しく計測できていないのではなく、見えていない場所での評判がまだ育っていないのかもしれません。
Webや広告は「需要を捕まえる仕組み」です。
ダークソーシャルは「需要を生み出す仕組み」です。
この2つは別物です。捕まえる仕組みだけを強化しても、生み出す場所がなければ、流れてくる水は増えません。
ダークソーシャルとは何か
「ダークソーシャル」とは、直接のトラッキングができないコミュニケーションチャンネルの総称です(※1)。具体的には次のような場所です。
これらはすべて、ツールには映りません。しかし、B2Bの「信頼の形成」はここから始まっています。
日本のB2B市場での文脈
日本のB2B市場は、特に「人づて」の力が強い構造を持っています。
- 同業種の小さなコミュニティで「あそこと組んだ話」が広まる。
- 業界のリスクを共有するような非公式なSlackグループがある。
- 先輩・後輩のつながりで、担当者が入れ替わっても関係が続く。
こうした構造において、「Webに投資しても成果が見えない」と感じている企業の多くは、計測できない場所での評判が先行しており、Webはあとから確認するためのツールとして機能しています。
Webは入口ではなく、確認ツールです。その認識の転換が、Webと営業と口コミを一体で設計するための出発点になります。
まず確認すべきこと
ツールが教えてくれることと、顧客が話してくれることの間にズレがあれば、そこに見直す余地があります。
計測できない場所での評判を育てる仕組みは、広告予算の拡大とは別の話です。まずは「今、何が本当に効いているか」を確かめるところから始めると、次の一手が見えてきます。
気になる方は、30分ほど現状の流入構造を整理するだけで、手を打つべきポイントが見えてくることが多いです。
(※1)Megan Bowen; David Kirkdorffer. "The Attribution Mirage". Refine Labs Blog. 2024-10-15. https://www.refinelabs.com/article/attribution-mirage, (参照 2026-05-12).